脳の話
脳オタクです。
私は理学療法士と言って、リハビリの仕事をしているのですが、いろいろの病気の人が治療の対象になります。長くやっていると、どんな仕事でもそうでしょうが好きな分野が出てきます。で、好きと言っては語弊があるので、まあ得意分野と言っておきますが中枢神経疾患が得意です。中枢神経疾患とは何かというと脳や脊髄の病気を総称して中枢神経疾患と言います。その中でも脳卒中という病気で片方の手足が麻痺してしまう病気の患者の方を多く治療していました。
その仕事をするには、脳や脊髄の構造や働きを知る必要があるのですが、仕事上勉強は不可欠です。そして何十年が経ち、いつの間にか脳ヲタになっていたのです。まあ、凝り性なんですね。早い話が。でもこの知識は仕事、しいてはお金(収入)に結びつくので悪いことではありません。
なんでハマるかというと、勉強してもらえばわかりますが、脳の構造や機能ってあまり分かってないところが沢山あるのです。心臓や肝臓、腎臓みたいにある程度構造や役割が分かっている臓器に比べると、本当に神秘に満ちているのです。
脳
特にそのなかでも面白いのは意識の分野かな。私がこの分野で一番感銘を受けた読み物は、ベンジャミン・リベットが描いたマインド・タイムという本です。これは革新的な内容でしたね!
内容は、我々が何かを感じたり運動したりしたときそのことを意識するのは0、5秒後だというのです。皆さんは0、5秒って早いって思うかもしれませんが、神経生理学上の0、5秒って二桁ぐらい遅い時間になります。例えば、目の前のコップを取るのに1秒かかったとしたら、神経生理学的に100倍すると1分20秒になります。つまり目の前のコップを取るのにこれだけかかるのです。皆さんもやってみてください。コップまで1分20秒かけて手を伸ばせばわかります。どれほど遅いか!
私たちが動いてからそのことを意識するのが0、5秒後ということは、水を飲もうとして手を伸ばしたらそれを意識するのが0、5秒後だということです。おかしくないですか?だって「あ〜喉が渇いた、水でも飲もうかな」って考えてコップに手を伸ばしますよねぇ。でもその動作を始める0、5秒前に体がすでに動いているという事になります。ちょっと普段の生活では考えられないですよね。その本によるとその誤差は脳が勝手に修正しているとのこと。だから私たちは気が付かないらしいです。
私たち、普段の生活でそんな事あります?よっぽど寝不足で「ボ〜」っとしていればそんなこともあるかもしれませんが、実験では動いたことを認識するのは常に0、5秒後なのです。じゃあ、私たちの体を動かしたり感じたりしているのは誰なのって事になりますよね。脳が勝手に動かしているとしか思えません。
本の中では、これに対する思考的な解決策が載っているのですが、この本を読んだ者からすると「案外、自己意識なんてそんなものかなぁ〜」なんて考たりしてしまいます。結局本当に体を動かしたり感じたりしているのは私本人ではなく、脳が勝手に動いたり感じたりしていて、頭の中の私はただそれをモニターしているだけなのかなぁ、なんて考えてしまいます。私は私という乗り物に乗って、勝手に動く自分を見ながらまるで自分が動かしている様な錯覚の世界に生きている。この本を読むとそんな感じになります。
昔、お釈迦様が「自分(自我)なんてものは、もともと幻みたいなものだよ。そんなものに固執しているうちは、幸せになんかなれませんよ。自我の殻を破って悟りの境地へ云々・・・」なんておっしゃていたことを思い出しますね。もし、この本が真実であるのならば、お釈迦様は何千年も前にこのことを知っていたということになりますね。ス、ス、スゴいの一言です。
下に本を貼っておきます。本当、一読の価値ありです!
Mind Time: The Temporal Factor in Consciousness (Perspectives in Cognitive Neuroscience)
- 作者:Libet, Benjamin
- 発売日: 2005/10/2
- メディア: ペーパーバック